山梨と宝石「新発想のカットパターン」7
社内に職人をかかえて育成し自らも宝石のカットを施すかたわら、県立宝石美術専門学校にて教壇に立つ、八面六臂の活躍をされている甲府の研磨職人の巨匠清水氏がこの業界に入ったのは、すでに宝石の仕事をしていた兄の影響で自然の成り行きだった。昔を振り返えると修行しているときはかなり辛かったという。当時、研磨するときの金剛砂は高価でどこの工房も再利用した。「桶を洗い砂の粗さを揃える作業に極寒の中でも水を使うが、歯を食いしばって頑張ってきた。現在の自分は下積み時代に支えられている。業界に入って40年以上経つが、評価されてきたのはここ数年だと感じる。今でも満足することなく、まだまだ一生修行だ。これからも技術を磨いて色んなものを作っていきたい」と淡々と語る。工匠の謙虚な姿勢のなかに、神の手を授かり黙々と偉大なキキョウカットを仕上げながら少し先を見据えた可能性と勢いを感じた。
貴石とは、①外観が美しい、②希少性が高い、③硬度が7以上で耐久性ある。この3つの条件が基本的に揃った宝石を指す。一方、沢山採取できる宝石はどんなに綺麗でも半貴石となり価値が下がる傾向があるのだ。ところが、清水氏はそれらに、付加価値として独特のカットを宝石のなかに施すことにより、②の「希少性が高い」に近づくよう半貴石の宝石に息を吹き込み、奇跡を起こした。それらは、桜インカット、ハートインカット、スターインカット、ダンデライオンカットなど複数のデザインのカットがあり、現段階では最小6ミリのルースにもカットが可能で、海外でも注目されている。
ちなみに、スタッフである女性職人により考案された「桜インカット」は宝石の正面中央に桜の花が浮きでる。その花びらの形はふっくらしたり、シャープになったりと職人の個性がでるという。手作業のため一つとして同じものはなく、まさに「世界で一つだけの(桜)花」となり、手に入れた人はそれを指輪やネックレスにしてその優越感に浸れる。やがて清水氏は伝統工芸士の深澤氏とのコラボにより生みだした、表面のカット5種と、裏の切子カット5種の組み合わせで計25種類のさまざまな模様と輝きをもたらす「甲州貴石切子」というさらに芸術的なカットを施した宝石を世に出すことになる。
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