山梨と宝石「巨匠のキキョウカット」6
ところでそれを上まわる、硬度7前後の水晶などに正五角形12枚で囲んだ正十二面体をベースにして、それぞれの五角形の中心に向かって稜線のある五面のファセットカットが合計180面を有する、形が桔梗の花びらに見えることから「キキョウカット」と呼ばれる多面体が存在する。これは世界で唯一無二のカット技術で、すべて手作業により手先の感覚と摩擦の音だけで宝石をカットしていく甲府の宝石研磨職人の巨匠である清水幸雄氏によるものだ。彼曰く、「こいつに出会ったのは昔、ジュエリーマスターを受験しようと思い師匠のところに相談に行ったときに、「これをやってみろ」って見せられたのが最初。その頃、師から教えてもらったのは「12面体を切れ」ということだけ。あとは見よう見まねでチャレンジして、3、4個失敗はしたけどすぐにコツをつかんでできた」と。その後、御師はすぐに亡くなったが、やり方を教えてくれなかったことが逆に闘争心に火がついたという。設計図はなく、完成形を頭のなかに描き手触りと勘だけで削っていくという。正確な180面体のキキョウカットを切るのは至難の技で20年以上はかかるそうだ。清水氏が宝石をカットし始めるときの集中力は半端ない。恐らくすぐ瞑想状態に入り、宇宙と一体化し手が動きだし神業を成し遂げるのではと、ふと思った。それだけ「キキョウカット」は精緻で美しいのだ。この技術を受け継ぐ職人は現時点で誰もいないのもうなずける。原石の大きさと質によるが、仕上がった宝石の大きさは最小で直径8mm位から数センチがおもだ。帰り際に、水晶占いで用いるような直径7cmくらいの大きくてみごとなキキョウカットの水晶を取りだして見せて下さった。工匠は、これだけの大きさが切れる原石は滅多にないのと、カットの作業中片手でずっと重たい宝石を抱えていることから制作が大変で、基本的にこのマスターピースは誰にも売る気はないと呟いた。
0 件のコメント:
コメントを投稿