山梨と宝石「歌舞伎の化粧法『隈取』とジュエリー」23
『暫』の主役、鎌倉権五郎に用いられた「筋隈」は激しい怒りに満ちた、超人的な力をもつ勇者の役に用いる紅隈で、いくつもの紅の筋を跳ね上げるように隈を取ることからこの名がつき、あごには三角形の紅を、口角へは墨を入れる。基本的に「紅色(赤)」は、荒事の基本である勇気・正義・強さを表す。そのなかで、「むきみ隈」は若々しく色気があり正義感にあふれた役、「一本隈」はやんちゃで暴れん坊役、「二本隈」は堂々として力強い大人の役などに用いる。武勇に優れた者が敵に捕まり閉じ込められ青白くやつれた役に用いる「景清の隈」は、白い地色に、顔の上半分は筋隈と同じ形の紅隈で、下半分は藍(あい)で取る。眉を際立たせたり、額に位星という丸い形を墨で入れたりする(『暫』の清原武衡など)藍隈は、国を転覆させようとする大悪人の役に用い冷たく不気味な印象を与える。地色を赤で塗り、紅でむきみ隈やあごの下にも隈を取る「赤っ面」は大悪人の家来や手下、考えの浅い乱暴者の役に用いられる。「茶隈」は人間がこの世のものではない妖怪や精霊、悪霊などに変身する役に用いる。その他、豪快な武士なのに、滑稽でおかしみの役に「猿隈」や、悪人なのに間抜けな観客を笑わせる役に「鯰隈」など、それら隈取によって役柄が一目瞭然でわかることは面白い。
ところで、市川九團次氏プロデュースによる隈取をモチーフにした、お手頃なタイニーピン(帯留め・マスクチャーム)がお目見えした。悪人を睨みつける目はキラキラと威を放つダンシングストーンだが、どこかしら愛くるしい紅隈のデザインになっている。そこにはクロスフォー株式会社広報の女性の目線があった。和装のとき一点だけ「ハズシ」をする着こなしが好きで、遊び心のある帯留めが欲しかった彼女の発想から画期的でとても素敵なアイテムが誕生したのだ。