Jewelry sommeliere

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NY州立大学FIT卒業。 米国宝石学会鑑定・鑑別有資格(GIA-GG,AJP)。 CMモデル、イベント通訳コンパニオン、イラストレーターなどを経て、両親の仕事を手伝い十数カ国訪問。現在「美時間」代表。今迄培ってきた運命学、自然医学、アロマテラピー、食文化、宝石学などの知識を生かし、健康で楽しく感動的な人生を描くプランナー、キュレーター、エッセイスト、ジュエリーソムリエール(Jewelry sommeliere)

2022年4月30日土曜日

週刊NY生活No 858 3/19/22' 宝石伝説50 山梨と宝石「歌舞伎の化粧法『隈取』とジュエリー23

  
 山梨と宝石「歌舞伎の化粧法『隈取』とジュエリー」23


 歌舞伎の演目『暫』のポーズをきめて静止し首を回して目玉を中央に寄せる大見得を切る大袈裟な動作とともに顔に施される異様で怖い隈取に、子どもおよび初見の人は衝撃を受けると思う。その歌舞伎独特の化粧法「隈取」とは、初代市川團十郎が、人形浄瑠璃の人形のかしらにヒントを得て創作したものといわれ、坂田金時の息子である英雄坂田金平役の初舞台で、紅と墨を用いた化粧が始まりといわれる。顔の血管や筋肉を誇張するために描かれる異なった色や形状は、役柄によっておおむね決まっている。

 『暫』の主役、鎌倉権五郎に用いられた「筋隈」は激しい怒りに満ちた、超人的な力をもつ勇者の役に用いる紅隈で、いくつもの紅の筋を跳ね上げるように隈を取ることからこの名がつき、あごには三角形の紅を、口角へは墨を入れる。基本的に「紅色(赤)」は、荒事の基本である勇気・正義・強さを表す。そのなかで、「むきみ隈」は若々しく色気があり正義感にあふれた役、「一本隈」はやんちゃで暴れん坊役、「二本隈」は堂々として力強い大人の役などに用いる。武勇に優れた者が敵に捕まり閉じ込められ青白くやつれた役に用いる「景清の隈」は、白い地色に、顔の上半分は筋隈と同じ形の紅隈で、下半分は藍(あい)で取る。眉を際立たせたり、額に位星という丸い形を墨で入れたりする(『暫』の清原武衡など)藍隈は、国を転覆させようとする大悪人の役に用い冷たく不気味な印象を与える。地色を赤で塗り、紅でむきみ隈やあごの下にも隈を取る「赤っ面」は大悪人の家来や手下、考えの浅い乱暴者の役に用いられる。「茶隈」は人間がこの世のものではない妖怪や精霊、悪霊などに変身する役に用いる。その他、豪快な武士なのに、滑稽でおかしみの役に「猿隈」や、悪人なのに間抜けな観客を笑わせる役に「鯰隈」など、それら隈取によって役柄が一目瞭然でわかることは面白い。

 ところで、市川九團次氏プロデュースによる隈取をモチーフにした、お手頃なタイニーピン(帯留め・マスクチャーム)がお目見えした。悪人を睨みつける目はキラキラと威を放つダンシングストーンだが、どこかしら愛くるしい紅隈のデザインになっている。そこにはクロスフォー株式会社広報の女性の目線があった。和装のとき一点だけ「ハズシ」をする着こなしが好きで、遊び心のある帯留めが欲しかった彼女の発想から画期的でとても素敵なアイテムが誕生したのだ。


週刊NY生活No854 2/19/22' 宝石伝説49 山梨と宝石「歌舞伎の演目『暫』」とジュエリー22

   
  山梨と宝石「歌舞伎の演目『暫』」とジュエリー22


 昨年の東京オリンピック開会式終盤に歌舞伎俳優の市川海老蔵は、ピアニスト上原ひろみとのコラボによる斬新な演出で「しばらく、しばらく」と大きな掛け声で登場し、最後には大見得(役者がポーズを決めて静止し、首を回したり目玉を中央に寄せたりする動作)を切るという、日本の伝統文化を世界に発信した。

「暫(しばらく)」とは歌舞伎十八番の1つで、悪人が善人の命を奪おうとしている危機一髪のとき

正義が現れ「しばらく」と大声をかけ超人的な力で荒れて救う。そのルーツは江戸時代で年に1度開かれた「顔見世」と呼ばれるおめでたい歌舞伎興行にある。上演作品のどこかに、ヒーローが「しばらく」と放ちながら登場し、人々を悪人の手から救うシーンを必ず入ることになっていたのだ。明治時代(1895)九代目市川團十郎がここだけを独立させて上演し、それ以降「暫」という1つの作品として現在に受け継がれるが、ストーリーよりも様式化された演出を楽しむ演目といわれる。悪人役は公家姿の清原武衡、正義感あふれる主人公は鎌倉権五郎で、その出立ちは顔に怒り心をあらわす筋隈を紅で描き、頭は角前髪つき両サイドに5本ずつ束ねられた「5本車鬢」(ちなみに前髪があるのは元服を行う前の少年)に侍烏帽子。衣装は、異様に大きな柿色の武士の礼服長素襖に腰帯、その背中には力強さを表す太い綱のような仁王たすきをし、袖は芯張りを入れた巨大な座布団のような形でその中心に市川家の三升紋が入る。巨人を思わせるために長袴の中には高さ約30cmの足つぎをはき腰には格別に長い大太刀を佩びている、まさに「歌舞伎」の語源である「傾(かぶ)き者」(常軌を逸した奇抜な格好・身なり)そのものだ。荒ぶるこの演技の役は、勢いのある強さを表現するため扮装はかなり大掛かりで日頃の鍛錬なしには勤まらないという。

 ところで、江戸時代に歌舞伎役者の中でも特に人気を誇り、大衆を魅了した者を「千両役者」と呼ぶが、実際に江戸中期大阪にある佐渡島座にて二代目市川團十郎が二千両(2億5600万円)で迎えられたという記録が残っている。

 さて、千両役者シリーズのジュエリーが(株)クロスフォー(市川九團次氏のプロデュース)からお目見えした。その1つが商品名【枡】。暫の着物に描かれた三紋枡をモチーフにしたもので、勢いとパワーが感じられるデザインだ。