Jewelry sommeliere

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NY州立大学FIT卒業。 米国宝石学会鑑定・鑑別有資格(GIA-GG,AJP)。 CMモデル、イベント通訳コンパニオン、イラストレーターなどを経て、両親の仕事を手伝い十数カ国訪問。現在「美時間」代表。今迄培ってきた運命学、自然医学、アロマテラピー、食文化、宝石学などの知識を生かし、健康で楽しく感動的な人生を描くプランナー、キュレーター、エッセイスト、ジュエリーソムリエール(Jewelry sommeliere)

2021年5月3日月曜日

週刊NY生活No.788 9/19/20`宝石伝説32山梨と宝石「甲州職人の技手擦り」5

          
        山梨と宝石「甲府職人の技 手擦り」5

 

 バブルの頃、国内の宝飾産業は4兆円産業といわれたが、最近では約7千億円まで落ち込んでいる。それは海外ブランドの輸入、アジア近隣諸国の台頭、既存の販売ルートの衰退などが追い討ちをかけたからだ。この状況改善のために、山梨では研磨宝飾の伝統技術を活かしたもの作りをブランド化して、グローバル市場に対応した生産地としての新たな試みがはじまった。

 甲府駅からタクシーを走らせ7~8分、移動する雨雲がちょうどきれた眩いかぎりの陽射しの先に、設立から35年を迎える(創業はその17年前)株式会社シミズ貴石があらわれ、玄関先に代表の清水幸雄氏が来られた。宝石一筋半世紀を迎える世界で唯一の宝石研磨技術を持つ職人は、2016年、黄綬褒賞を受賞されるもその勢いは現在なお進行形だ。

 さて、甲府の職人の得意技である、手擦り(手で石を持って、平面を研磨機に直接当てて研磨する技術)によるカットは手先の感覚と摩擦の音だけで切る方法で、世界的にみても甲府職人だけができる難しい技術だという。せっかくだからということで、実際の手擦りの過程を見学させて頂くことになった。2階に上がると磨かれる前の色とりどりの原石が待機する部屋とその隣りは、すでに磨きを終えてデビューを待つ宝石のルースが勢ぞろいする。そして、一般的なカットは勿論のこと、山梨の研磨宝飾の伝統と技が集結した幾つかの独特なカットを施す部屋があり数名の職人が作業中だった。ちなみに、日本には原石からカットして宝石を仕上げる会社は数社だけとのこと。

 そしていよいよ、大きさ2cmくらいの原石が匠の手にかかる。荒削り後、細かい金剛砂で削る面によって力の加減を変えながら手擦りをはじめてものの10分ほど。あれよあれよという間に歪な形をしたかたまりが、まるでマジックを観ているが如く見事なエメラルドカットに仕上がった。最後の工程はスタッフの女性により、青粉という酸化クロムを使いケヤキの木に当てることにより、ピカピカに磨きあげられたピンクがかった淡いアメシストの宝石が誕生した。名匠いわく、「カット面が平行に当たっているかを摩擦の音で判断する手擦りで一つの宝石を仕上げるのは、一朝一夕とはいかず10年はかかる」とのことだ。

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