Jewelry sommeliere

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NY州立大学FIT卒業。 米国宝石学会鑑定・鑑別有資格(GIA-GG,AJP)。 CMモデル、イベント通訳コンパニオン、イラストレーターなどを経て、両親の仕事を手伝い十数カ国訪問。現在「美時間」代表。今迄培ってきた運命学、自然医学、アロマテラピー、食文化、宝石学などの知識を生かし、健康で楽しく感動的な人生を描くプランナー、キュレーター、エッセイスト、ジュエリーソムリエール(Jewelry sommeliere)

2018年5月18日金曜日

週刊NY生活No.678 5/19/18' 宝石伝説4マリー=ルイーズのリメイク’ティアラ’

                マリー=ルイーズのリメイク‘ティアラ’

     宝石史上、劇的にリメイクを施されてしまった有名なテイアラがある。それは1810年ナポレオン1世が結婚を記念して2番目の妻マリー=ルイーズに贈ったもので、パリのエティエンヌ・ニト・エ・フィス(後の宝石商ショーメ)のフランソワ=ルニョ・ニトによって制作された。当初テイアラは、1000個を上回るダイヤモンドの取り巻きに、総重量700ctにもなる79個の深緑色のコロンビア産エメラルド(中央に12ctをはじめとする21個の大きな石と57個の小さな石)があしらわれていた。なお、これはパリュール ‘parure’ (さまざまのアイテムが揃ったジュエリーのセット)の一部で、その他にネックレス、櫛、ベルトのバックル、イヤリングが含まれていた。

  マリー=ルイーズの亡きのち、テイアラは叔母のエリーゼ大公妃に遺された。その後、1950年代に宝石商のヴァン クリフ&アーペルがエリーゼの子孫からこれを入手し、エメラルドだけを取り外しオークションで売却してしまったのだ。そのときのキャッチフレーズは、「歴史的なナポレオンのテイアラのエメラルドをあなたに・・・」。そして、エメラルドの代わりに79個(540ct)のカボションカットされたペルシャ産(最も高品質で均一なスカイブルーの色合い)の繁栄を意味するトルコ石をセットした。テイアラの変貌に驚愕する人がいる一方、魅力を感じる人もいた。その一人アメリカの上流階級の夫人マージョリー・メリウエザー・ポストは、1971年このリメイクされたテイアラを購入し、群を抜く豪華な自分のコレクションの一つに加える。数回身につけた後(奇しくもナポレオンが1811年の息子の誕生日を祝い、妻のマリー=ルイーズに贈った263ctのダイヤモンドネックレスをハリー・ウインストンから購入したのも彼女だ)、このネックレスに続きアメリカ・ワシントンD.C.のスミソニアン博物館に寄贈した。再会を果たした二つのレガシーは隣同士に並び美しさを競いあっている。

週刊 NY生活No.674 4/21/18' 宝石伝説3ナポレオンのダイヤモンドネックレス

              ナポレオンのダイヤモンドネックレス


   フランス革命期に天才的な戦略と戦術によりヨーロッパ大陸の大半を支配下に治めた軍人・政治家のナポレオン・ボナパルトは、宝石を愛して数多く所有し自らも身につけた。なかでも地球上で最も硬い物質「征服されざる」という意味を持つギリシャ語アダマス(Adamas)から変化した呼び名のダイヤモンドは、自分自身を象徴する宝石と考えたのか特別な思いを抱いていた。  ナポレオンは後継者を産めなかったジョセフィーヌ皇后と離婚し、オーストリア皇女マリー=ルイーズと再婚後、1年を待たずして息子のナポレオン・フランソワ=ジョセフ・シャルルを授る。すると即座に彼はパリの宝石商ニト・エ・フィスに、皇后が1年間に使える皇室の予算に匹敵する高価なダイヤモンドのネックレス(376274フラン)を彼女のために特注した。
  このネックレスは、234個すべてがダイヤモンド(総重量263ct)による。その大きな石47個は、一連の鎖に28個のマインカット(ブリリアントカットの初期スタイル)によりセットされ、9個のペアシェイプ(その内4個に23個の小さな石をあしらった)10個のブリオレットカット(滴形のカット)の石が、そこから吊り下げられたとてもゴージャスなネックレスだ。
    ダイヤモンドは炭素原子の結晶で、全体の98%は窒素(黄色みを帯びる色因)など炭素以外の不純物を含むタイプI’ と、窒素をまったく含まないタイプII’ に分かれる。なかでもタイプIIaは、不純物を一切含まない純粋な無色になり、全体の2%にも満たず希少性が極めて高い。ちなみに、このネックレスのうち13個の石はタイプII aだ。

  マリー=ルイーズはこのネックレスがとても気に入り、身につけている様子が何点もの肖像画に見られる。後に失脚したナポレオンを見捨てる(再婚を繰り返す)一方、自身が亡くなるまで手放さなかったというこのネックレスは、現在アメリカ・ワシントンDCのスミソニアン博物館で輝きを放っている。