マリー=ルイーズのリメイク‘ティアラ’
宝石史上、劇的にリメイクを施されてしまった有名なテイアラがある。それは1810年ナポレオン1世が結婚を記念して2番目の妻マリー=ルイーズに贈ったもので、パリのエティエンヌ・ニト・エ・フィス(後の宝石商ショーメ)のフランソワ=ルニョ・ニトによって制作された。当初テイアラは、1000個を上回るダイヤモンドの取り巻きに、総重量700ctにもなる79個の深緑色のコロンビア産エメラルド(中央に12ctをはじめとする21個の大きな石と57個の小さな石)があしらわれていた。なお、これはパリュール ‘parure’ (さまざまのアイテムが揃ったジュエリーのセット)の一部で、その他にネックレス、櫛、ベルトのバックル、イヤリングが含まれていた。
マリー=ルイーズの亡きのち、テイアラは叔母のエリーゼ大公妃に遺された。その後、1950年代に宝石商のヴァン クリフ&アーペルがエリーゼの子孫からこれを入手し、エメラルドだけを取り外しオークションで売却してしまったのだ。そのときのキャッチフレーズは、「歴史的なナポレオンのテイアラのエメラルドをあなたに・・・」。そして、エメラルドの代わりに79個(540ct)のカボションカットされたペルシャ産(最も高品質で均一なスカイブルーの色合い)の繁栄を意味するトルコ石をセットした。テイアラの変貌に驚愕する人がいる一方、魅力を感じる人もいた。その一人アメリカの上流階級の夫人マージョリー・メリウエザー・ポストは、1971年このリメイクされたテイアラを購入し、群を抜く豪華な自分のコレクションの一つに加える。数回身につけた後(奇しくもナポレオンが1811年の息子の誕生日を祝い、妻のマリー=ルイーズに贈った263ctのダイヤモンドネックレスをハリー・ウインストンから購入したのも彼女だ)、このネックレスに続きアメリカ・ワシントンD.C.のスミソニアン博物館に寄贈した。再会を果たした二つのレガシーは隣同士に並び美しさを競いあっている。