Jewelry sommeliere

自分の写真
NY州立大学FIT卒業。 米国宝石学会鑑定・鑑別有資格(GIA-GG,AJP)。 CMモデル、イベント通訳コンパニオン、イラストレーターなどを経て、両親の仕事を手伝い十数カ国訪問。現在「美時間」代表。今迄培ってきた運命学、自然医学、アロマテラピー、食文化、宝石学などの知識を生かし、健康で楽しく感動的な人生を描くプランナー、キュレーター、エッセイスト、ジュエリーソムリエール(Jewelry sommeliere)

2020年9月7日月曜日

週刊NY生活No.785 8/22/20'宝石伝説31山梨と宝石「宝石加工地の歴史」4

      山梨と宝石「宝石加工地の歴史」4

 江戸時代、甲州御岳山一帯から産出された豊富な水晶をもって誕生した山梨のジュエリー産業は、「水晶工芸=水晶研磨」と「貴金属工芸=錺(かざり)職」(江戸時代の後期、錺屋金五郎により京都で創業。鋳造・鍛造・彫金・象嵌・七宝などの金属を細工する職)の2つの流れで発展したが、のちに市場性の高い製品づくりを目指すため1つになる。大正に入ると、水晶の研磨加工は機械化・電化により手磨りから円盤磨きへと変わる。そのころ(地元産の枯渇)ブラジル産水晶の大量輸入により同一規格品の量産も可能になった。やがて、国内の販路拡張、米国への輸出、中国大陸への出張販売などにより基盤が形成され、研磨宝飾品の産地「水晶の山梨」として全国に知らしめた。
 昭和に入り戦争がはじまると研磨宝飾業者は、水晶発振子、光学レンズ、絶縁体などの軍需研磨品の生産体制へと組みこまれ「奢侈品など製造販売制限規制」も発令。さらに悪いことに、空襲(甲府市の80%が壊滅的被害)による大きな打撃が重なり、転廃業など余儀なくされた。戦後その復活に寄与したのは皮肉にも進駐軍の兵士たちで、ジュエリーや水晶細工などをみやげ品として大量購入して行った。
 戦争の抑圧は反動となり、研磨宝飾品の需要は増大し、国内向けの本格的な生産が再開される。昭和30年代には、真鍮、模造金、銀と、半貴石、合成石、ガラスを合わせた装飾品を中心に、室内装飾品、工業用品などが量産される。やがて高度成長期をむかえ、国民の生活が安定すると、宝飾品などの高級・多様化を求める人々のニーズに合わせて、金やプラチナの台にダイヤモンドや貴石などの色石を嵌める加工をはじめた。また、昭和48年の金地金・金製品の輸入の自由化により、海外の優れた金製品のデザインや加工技術からも大きな影響をうける。
 一方で、研磨宝飾産業のさらなる発展と人材育成を目指して、昭和56年「山梨県立宝石美術専門学校」が開校し、産業を支える新しい世代が生まれ多くの卒業生が県内外の宝飾業界で活躍するようになる。昭和61年頃からバブル経済期に入ると、ジュエリーは花形商品となり山梨の宝飾業界も最盛期をむかえるが、バブルが弾けると一転して市場は再び縮小し低迷期に入っていく。

週刊NY生活No.780 7/18/20`宝石伝説30山梨と宝石「世界第1.2の宝石研磨・加工地」3

   山梨と宝石「世界第1.2位の宝石研磨・加工地」3
 
 各国から山梨県甲府に宝石関係の業者が訪れるのは、日本の職人のもつ生真面目・心意気・手先の器用さなどによる。美しいジュエリー制作を心がけて見えないところまで注意を払い、最後の工程である石留めに至るまで一瞬たりとも手を抜かず宝石を仕上げていく職人技は海外からも注目されているのだ。彼らがジュエリーの制作技術などを争う技能五輪全国大会でメダルを獲得するのも納得できる。さらに山梨は金属の鑑定機関も有しており、厳しい品質を追求した上での金やプラチナを使用した宝飾品のみならず、宝石で工芸品も制作している。そして世界一の「宝石研磨・加工地」ドイツ西部にあるイーダー・オーバシュタインに次ぐメッカとなった。
 世界一の場所は経済の中心地フランクフルトから車で約2時間程度に位置する。小さな宝石の街だがその歴史は古く、豊富に産出されたメノウ細工は地域の特産品で、16世紀には最初の宝石研磨工房が作られていた。17世紀~18世紀のヨーロッパは絶対主義のもとで、当時は宮廷を中心とする文化が栄えていた。その頃から貴族の間で流行していたカメオ細工を含む宝石彫刻は特に有名だった。ドイツ人の生来勤勉頑固な気質をもち、几帳面で正確無比の素晴らしいカットをするその高度な技術は、現在に至るもここの彫刻職人しか受け継いでいないといわれ、現在も10名ほどの彫刻家が活躍しているという。19世紀の後半には約150カ所の工房を超える宝石の街に発展していくがやがて、地元で採れたメノウの枯渇もあいまってそれだけでは商業的需要を満たせなくなった。そこで長い年月で培われた技術を生かし、世界中の宝石鉱物を輸入して研磨することに活路を開いた。今もなお宝石加工の中心地で、鉱物博物館もかまえる観光名所になっている。
 ちなみに、メノウは水晶と同じ石英ファミリー(同じ結晶系)に族し、カルセドニー(玉髄)と呼ばれる。水晶の形態が柱状に対して、メノウは潜晶質(肉眼では分からない非常に小さい結晶の集まり)。昨今、門外不出のレシピによる手彫りの最高級カメオは、主流であるブラジル産の複数層ある縞状メノウのわずか1~3%程度しか取れない部分によるもので貴重な宝石となる。