Jewelry sommeliere

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NY州立大学FIT卒業。 米国宝石学会鑑定・鑑別有資格(GIA-GG,AJP)。 CMモデル、イベント通訳コンパニオン、イラストレーターなどを経て、両親の仕事を手伝い十数カ国訪問。現在「美時間」代表。今迄培ってきた運命学、自然医学、アロマテラピー、食文化、宝石学などの知識を生かし、健康で楽しく感動的な人生を描くプランナー、キュレーター、エッセイスト、ジュエリーソムリエール(Jewelry sommeliere)

2021年9月7日火曜日

週刊NY生活No.827 7/17/21'宝石伝説42山梨と宝石「エクセレントロック」(止め金)15

 
   山梨と宝石「エクセレントロック」(留め金)15

 

 世界を舞うクロスフォーカット、ダンシングストーンを演出したサンリオウの土橋氏はその舞台裏に目を向け始めた。きっかけとなったのは「ジュエリーをもっと簡単に身に着けたり外せたりできれば」との最愛の伴侶からの呟きからだ。

 ネックレスやブレスレットを装うさいに必要となってくるのがクラスプ(留め金)で、脇役でありながら主役の華やかな舞(ジュエリー)を支えてつなげていく重要な役割を担っている。さらにわずか数ミリの貴金属などのチェーンに合わせるとおのずと小さくなり着けづらい。自らの経験上だが、片手でつける難しさも加わるテニスブレスレットなど、時間がないときは着けることを断念していた。チェーンを簡単につけられ、デザイン上でもジュエリーの美しさを損なわないクラスプがあったら良いなと願うのはジュエリー好きな人のもつ共通の要望だ。

 その矢先、救世主サンリオウにより開発されてお披露目されたのが、縦長構造によりチェーンのラインに沿ってデザインを損なわずにつながり充分にその美しさを堪能、簡単に片手で挟んで着脱できる止め金具の「エクセレントロック」(特許出願中)だ。そしてこれはダイヤモンドに刻んだクロスフォーカット、ダンシングストーンとすべてを繋いでいく影の立役者になっていく。氏は、「クラスプは地味ではあるけど、チェーンをつなげるのに欠かすことができない大切なパーツなので、すべての商品とコラボレートしてお互いにwin-winの関係を保てば、大きな市場になると思う。また世界のジュエリー市場は50兆円に迫るといわれているなか、クラスプの市場は2000億円になるのでは」と期待に胸を膨らませる。さらに「エクセレントロックの上に蝶々などのカバー(ジャケット)を制作したが、お客さまがOEMでオリジナルのカバーを作ることもできる」と語る。

 2019年の秋、香港の展示会にてこのクラスプを発表したところ予想以上の大きな反響があり、たった1日でジュエリー業界の大手が押し寄せたとのことだ。氏は「この商品は、世界のブランドと共存・共栄の関係を築けるしまた、していくべきである」と語尾を強める。「そして多くの人々が使ってくれることにより世界中に広まっていくのでは」と、三方良しの現代的経営哲学をもつサンリオウの瞳は、ダンシングストーンのようにキラキラと輝いてみえた。


週刊NY生活No.823 6/19/21' 宝石伝説41山梨と宝石「踊り続けるダンシングストーン」14

  
 山梨と宝石「踊り続けるダンシングストーン」14

 

 サンリのオウ土橋氏は社名にもなった「クロスフォーカット」を誕生させた後、人間のわずかな振動がともなっていれば、ダイヤモンドの最大な魅力であるシンチレーション(キラキラの輝き)が絶え間なくつづく画期的な「宝石のセッティング方法」を生みだした。そして宝石がまるで踊っているような姿から「DancingStone」と命名し、この石を揺らす部分の仕組みの特許を取得する。そして2011年に発表するやいな世界的なヒットとなり、当時の年間販売数は360万個にも及んだ。氏は、宝石業界を震撼させる従来なかった新商品を生みだすという奇抜な独創性が評価され、2014年度の「山梨産業大賞・ものづくり大賞部門」を受賞し、その3年後には東証ジャスダックに株式会社上場を果たしていく。

 世界中で昔から水晶にはあらゆるパワーがあるとされ、日本でも戦国時代の武将、武田信玄は戦いの際には常に水晶の「大念珠」を戦勝祈願のお守りとして身に付けていた。山梨県は水晶の大産地でありながらやがて枯渇するも、その加工技術が優れていたことから宝飾産業は大きく発展していく。なかでも甲府市はドイツのイーダー・オーバーシュタインと並ぶ「世界二大宝石加工の街」といわれ、1990~91年のバブル絶頂期に日本のジュエリー市場が3兆円規模だったころ出荷額全国第1位を誇っていたが、バブル崩壊後急速に縮小。2008年のリーマンショック、そして東日本大震災には9000億円を割り込むなど厳しい状況が続いた。さらに少子高齢化や若年層の所得水準の低迷などから今後も国内だけでは飛躍的な売上は見込めない一方で、経済発展の続く中国やインド、東南アジアでの需要は右肩上がりだ。数年前、宝石の展示会で知り合いのブースを訪れた時のこと。奥に座っていたアジア風の女性が自国に向けてのライブ配信をしていた。彼女が母国語を早口でまくし立てながら次々に身に付ける宝飾品はその場で売れていく。まるで深夜のショッピングチャンネルさながらの盛況ぶりだった。

 ダンシングストーンの今日までの累計販売個数は3000万個に至る。自社ブランドであるCrossfor New Yorkにて女性・男性用ジュエリー、小物用品などにセッティングして販売するほか、国内はOEMとして製品を、海外では揺れる部分のパーツを卸している。ダンシングストーンのマーケットはアメリカ、インド、タイ、香港などが中心で、今なお全世界をまたにかけて踊り続けている。