「ファベルジェのイースターエッグ」(下)
最後のインペリアル・イースターエッグといわれる『聖ゲオルギウス勲章』。1916年、ニコライ2世から母親の皇太后マリアに献呈されたもので、エッグの表面にはボタンがある。それを押すと、ゲオルギウスの十字架のところに皇帝と息子の皇太子アレクセイの肖像が表れる。これはファベルジェの皇室関連の作品の中で唯一、マリアが亡命先に所持していたものだ。
これらのエッグは、ロシアの皇室だけではなく、チャーチル首相夫人、ロスチャイルドの分家、ロシアの実業家などごく限られた客の注文にも応じていたが、ロシア革命が起きたことでロマノフ朝の宮殿は荒らされ国外へ散逸した。そして最多のファベルジェのイースターエッグ(9個)を所有してたのは、アメリカの経済誌「フォーブス」の元発行人マルコム・フォーブスで、自身が経営するニューヨークのギャラリーで展示していた。彼の死後遺族により、2004年サザビーズのオークションに出品され、ロシアの大富豪にまとめて落札されたその金額は、当時の史上最高額1億ドルに達したという。購入者イヴァノフと代理人ヴェクセリベルグは「ロシア国民として国の歴史と文化を伝える貴重な品、世界最高峰の宝飾品を守ろうとした」とテレビの取材に答え、こうして2013年11月サンクトペテルブルクにファベルジェ美術館を開館した。
現在約55個のファベルジェのエッグの内44個の所在が判っておりロシアが最多数を誇る。その次はアメリカで、財力と人脈によりそのコレクションを築いた屈指の蒐集家が5人いる。その1人が1929年に創業したゼネラルフーズの社主でアメリカ随一の女性大富豪マージョリー・メリウエザー・ポストだ。ダイアモンドがふんだんに散りばめられた巨大なエッグを2個所有し、遺言により彼女の立ち上げた財団に寄託し、現今はワシントンD.C.に私設美術館として開館したヒルウッド庭園美術館に所蔵・管理されている。ちなみに、アメリカ大統領D・トランプの別荘マー・ア・ラゴ(フロリダ州パームビーチ)を建設した彼女は、多くの歴史的な宝飾品と縁が深い。