アクアマリン(藍玉)
限りなく透明な水色の海を彷彿させるアクアマリン(海水を意味するラテン語)はベリル(緑柱石)族で、その結晶は先端を水平にスパッと切り落としたような六角形の柱。ちなみに同じベリル族でも緑色はエメラルドになる。宝石は種類により人口の照明下では美しさの度合いが損なわれるが、アクアマリンに限り輝きを増すことから、中世ヨーロッパでは夜会用の宝石「夜の女王」として親しまれ、月光を浴びると幻想的に煌めくことから昔から聖なる石といわれる。清らかな水面を見ながら深呼吸すると何かしら爽快な気分になるが、水と非常に関連性が強いとされるこの石は、身に付けると私たちの内面に滞ってしまった老廃物を浄化するフィルターの役目となり、気持ちのバランスを整え安定感をもたらすという。
アクアマリンは特に中世のローマ人を虜にしたようだ。第26代ローマ教皇・軍人法王の 'ユリウス二世' (1503~1513年在位)は好戦的な教皇であった反面、芸術をこよなく愛し、ラファエロに自らの肖像画を、ミケランジェロにシスティーナ礼拝堂の天井画を描かせ、バチカン美術館を興隆させるなどルネサンス芸術の最盛期をもたらした。塩野七生は『神の代理人』の中で、ユリウス二世は、5万ドゥカード(当時の貨幣)をかけて作らせた黄金と宝石に輝く'三重冠'(教会と法王の尊厳を示す)を頭上に被り何度か行軍したと書いている。それら宝石の中に、一番大きく美しいものの一つである約5センチ四方のアクアマリンがはめられていたという。