カルティエ「パンテール(豹)」5
映画「オーシャンズ」シリーズのなかで、初めて女性たちが活躍する『オーシャンズ8』は、カルティエ至宝のダイヤモンドネックレス「トゥーサン」が要となる。この宝石は架空のものだが、「トゥーサン」とは1933年から1970年にかけて現代ジュエリーに革命をもたらし、カルティエを支えてきた女性デザイナー、ジャンヌ・トゥーサンのことだ。1877年にベルギー・ブリュッセルのレース職人の娘として生まれた彼女は16歳のとき恋人とパリで同棲するも、やがて1人になり生活費を稼ぐためにバック作りをはじめる。そしてカルティエの創業者の孫、ルイ・カルティエにその才能を見出されメゾンで働きだし、彼からジュエリーの知識を学ぶとともにやがて右腕として大切な存在となる。1933年、彼女は、心臓病を患ったルイからハイジュエリー部門の最高責任者に抜擢され、その生涯をカルティエに捧げた。遂には、彼女のニックネームとなる、あふれる大胆さと野性的でありながらしなやかで美しい「パンテール(豹)」を生み出し、それをモチーフにさまざまなジュエリーや時計「パンテール ドゥ カルティエ」を制作していく。彼女は伝統あるジュエリーメゾンのクリエーションを最初に主導したのだ。代表作の一つに、カボションカットされたカシミール産サファイア(152.35カラット)にまたがる立体的なプラチナの豹のクリップブローチがある。当時、ウインザー公爵夫人がこれを身に付けたことで、1950年代は宝石サファイアが再流行したといわれる。
ルイ・カルティエの弟ピエールが参画してから、カルティエブランドはますます飛躍をみせ、1907年にはロシア皇帝、翌年にはシャム国王の御用達となった。1909年、ピエールは、ロンドン支店を同区のニュー・ボンド・ストリート175-176番地に移転。さらに、アメリカ初上陸を遂げる。ニューヨーク5番街712番地に支店を開いた8年後、5番街653番地にあったモートン・F・プラントの邸宅を最高級真珠の2連ネックレスと交換しそこに移転して現在に至る。
毎年暮れになると、トレードカラーの赤いイルミネーションの大きなリボンで結ばれたブティックに、人々は目が釘付けになる。一瞬クリスマスプレゼントを貰った気分に浸るのだ。