Jewelry sommeliere

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NY州立大学FIT卒業。 米国宝石学会鑑定・鑑別有資格(GIA-GG,AJP)。 CMモデル、イベント通訳コンパニオン、イラストレーターなどを経て、両親の仕事を手伝い十数カ国訪問。現在「美時間」代表。今迄培ってきた運命学、自然医学、アロマテラピー、食文化、宝石学などの知識を生かし、健康で楽しく感動的な人生を描くプランナー、キュレーター、エッセイスト、ジュエリーソムリエール(Jewelry sommeliere)

2020年7月8日水曜日

週刊NY生活No.776.6/20/20'宝石伝説29山梨と宝石「宝石の街」2

       山梨と宝石「宝石の街」2
 
 国石とは、その国家を代表・象徴する石(宝石)のことを言う。それを定める条件として「国産の美しい石で、生活に関わり利用されてきた」などがある。2016年9月、日本鉱物科学会は、1913年に米国の鉱物学者J・F・Kunzが著した本で、日本の国石を「水晶」と記したのを、「ひすい」に選定しなおした。その理由は、縄文時代の遺跡(新潟県糸魚川市)にて、ひすいがたたき石として使用されていたことや、人類初の国内ひすい加工の証しである大珠の発見による。
 僅差で準国石となった水晶の代表的な産地に山梨県がある。今から遡ること平安時代の中期、山梨県北部に位置する 御岳昇仙峡の奥地、金峰山周辺から水晶の原石が発見された以降、「宝石の街」山梨の歴史は始まった。同県の水晶がその名を誇ってきたのは豊富な産出量のみならずその素晴らしい形状で、なかでも無色透明で大型の単結晶は類いまれな美しさだった。水晶とは、花崗岩の主要構成鉱物の一つである石英のなかでも透明~亜透明の石をさす。英名である「ロッククリスタル」は、中世後期に無色透明なガラスを作る技術が生まれ、それと区別するためにつけられた名称。水晶は、柱状の形態で地球上で最も多い元素の酸素とケイ素から成り、4面体すべての頂点と隣接する4面体とが共有し三次元的に連なる結晶構造を持つ。
 甲府は、江戸時代に入ると京都から職人を招き水晶を鐡板上で金剛砂を使って研磨し、本格的な飾り技術まで発展していく。明治時代には水晶宝飾の全盛期をむかえたが、やがて地産原石は枯渇しいったんは廃業を余儀なくされる業者が現れる。それゆえ原石を海外から輸入することになったが、長い歳月を経て培われた高度の研磨加工技術はさらに磨きをかけ、現在に至るまで継承されている。1980年後半~1990年代初頭、バブル景気とともに国内の宝石の需要は高まっていく。それに従うように、宝石のカットや加工技術も卓越した宝石大国のインド(18世紀までダイヤモンドの主要産地)から宝石商が甲府にこぞって訪れた。その後、日本の宝石マーケット市場の縮小に応じて、商売を国内から世界を相手にするシフトに切り替え、今なお国内外の1000社を超える業者が甲府に集結し、卓越したジュエリーを海外に発信している。

週刊NY生活No.772 5/16/20`宝石伝説28山梨と宝石「宝石庭園 信玄の里」1

     山梨と宝石「宝石庭園 信玄の里」1

 室町後期の戦国時代、甲斐源氏の武田信玄は、織田信長さえもうかつに手だしができない戦国最強の武将で「甲斐の虎」と呼ばれその名を轟かせた。多くの戦国武将たちは、武田軍の「風林火山」と書かれた四文字の軍旗を見ただけで震え上がった。信玄は戦いの際には常に水晶の「大念珠」を戦勝祈願のお守りとして身に付けていた。甲府市の天目山栖雲寺(てんもくさんせいうんじ)には、信玄が奉納した軍配が伝わっており、その中央にも丸い水晶がはめこまれている。古くから水晶にはあらゆるパワーがあるとされ、お守りとして用いられていた。山梨県の水晶の歴史は古く、甲府市の黒平遺跡群では約2万年前の旧石器時代に水晶の石器が使用されていたことが判明し、塩山市の乙木田遺跡では、縄文時代の水晶を加工した作業場の跡が発見されている。
 同県、笛吹市石和に日本で唯一の「宝石庭園 信玄の里」がある。威風堂々とした信玄像に迎えられ、洞窟を抜けると目の前に桃源郷のような約1000坪に及ぶ和と洋がおりなす優美な日本庭園が広がる。庭一面に敷きつめられたアメジスト、ローズクオーツ、タイガーアイなどの宝石(半貴石)は光り輝き、いまなお息づく庭園内の大木化石は、春は桜の花が咲き乱れ、夏は木の葉が青々とみなぎり、秋は紅葉が色づき、冬は白銀の世界などの四季折々の風情とみごとに調和している。また滝が豊かに流れ落ちる池には、まるで悠久の時を超えて泳ぐ宝石のような、なかには体長が最大1m強にもおよぶ艶やかな色合いの錦鯉が群れをなしている。
 ところで、宝石の世界的な定義とは、希少性が高くて美しい外観を持ち、モース硬度(宝石の美観をたやすく失う原因となる経年劣化(風化)を招く砂ぼこりの中に多く含まれる石英の硬さ(7)を基準値として)が7よりも高い天然鉱物のことで、貴石とも呼ばれる(それ以外は半貴石)。かたや、硬度が7以下のヒスイやオパールも貴石と呼ばれることがあるのは、定義のなかで外観の美しさが最も大切(身に付ける際の耐久性・摩耗性があること)な要素となるからだ。それに対して、宝石庭園を構成する水晶など硬度は7あり美しいが、豊富に採れるので半貴石の宝石となる。