シニア層の快適住宅事情
今や世界一の長寿大国に成長した日本。65歳以上の高齢者人口は現在約4割に達し、その約半数が高齢単身・夫婦世帯と言われている。こうした状況から、不動産でも家族向けマンションの売れ行きが低迷するなか、シニア層向けの分譲マンションが絶頂期を迎えている。
1960年代後半の高度成長期につれて、商業施設を造らない英国式の緑に囲まれた静かな環境の街づくりが鉄道の延伸と共に脚光を浴びた。あれから数十年、当時戸建てに憧れて住み始めた人々は年を重ね、買い物や駅に行くまでの距離が遠く感じるようになり、途上の坂道は彼らの行く手を阻む。そのような諸行無常のなか、渋谷を拠点とする大手電鉄会社が、彼らの不安で停滞しているどんよりした暗雲を一掃するだけではなく、新鮮な風を送り込むようなアイデアを打ち出した。つまり、街が住民の年齢と共に年を取るのではなく、様々な世代が循環しながら成長できる安心で快適な「世代循環型街づくり」が計画されたのだ。
その一つとして、駅前にシニア層向け(段差のないバリアフリーの2LDK中心)のマンションを建設した。入居中の完熟年夫婦がインタビューに答えて、子供が独立して以来、家族同然に飼っていたという犬の写真を見せながら「主人とこの子の3人でこれからの人生を謳歌したいわ」と微笑む。駅まで雨にも濡れず足を運べるだけではなく、その途中にはクリニックやデイサービス、商店などがある。またインターネットによる宅配をはじめとする40種類以上の高齢者をサポートするサービスも受けられる。そして彼らが手放した空き家はリノベーションして、子育て世代に引き渡すという。その結果、駅周辺は年寄りからベビーカーを押す若いファミリー世代で活気に溢れ出した。