シニア層お一人さまの住宅事情
一昔前、離れて暮らす親を心配する子供のために、有名電機メーカーが興味深い電気ポットを開発した。急須にお湯を注ぐとその反応が子供に届き、親の安否がわかるという仕掛けだ。ほのぼのとするテレビCMだったが、生涯独身、伴侶や子供と生き別れ死に別れによるお一人さまはそうはいかない。内閣府によると、平成27年度の65歳以上の単独世帯は推計で約600万世帯。そのうち持ち家率は約65%。高齢期に向かい身体機能が低下する上で必要になる家のリフォーム、一人になりがらんとした家、年金だけでは足りない固定資産税を含めた生活費など問題は山積し、今後何処でどう暮らすかの選択を迫られる。安心なのは老人ホームや高齢者用住宅に入居することだが、懐などの諸事情から入居できない人たちも多い。礼金や更新料もなく家賃が安い高齢者向けの公営住宅もあるが、抽選制で倍率は高い。いずれにしても入居する上で必要なのが保証人。貸主は、家賃の滞納と孤独死を懸念するからだ。そのハードルを越えられないお一人さまは、やむなく本来は生活保護者用の一時的な宿泊施設である「ドヤ (簡易宿泊所)」で、劣悪な居住環境に耐えながら長期滞在を余儀なくされる。今年5月そうした「ドヤ」で火災があり、犠牲者10人のうち大半が高齢者だった。
一方、東京近郊の大学が移転して空き家になった学生寮を買い取り、月額数万円の家賃で彼らに開放する救世主も出てきた。貸主曰く、「高齢者は、夜逃げすることもないし、他界した人の後の部屋でも気にしないよ」と。その一人に老人ホームに入るのが嫌で入居したという未亡人がいた。小さな部屋の中を占領する大きな仏壇が居心地悪そうに見えたのは私だけであろうか?