故宮博物院「肉形石」
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ニ石めは、子供の拳くらいの大きさで、テリのある飴色のプルプルとしたゼラチン質の皮の下に、今にも崩れそうなほど柔らかくなったぶ厚い脂身と、わずかな赤身の層が重なる、どの角度から観ても本物そっくりの東坡肉で、「肉形石」の号を持つオブジェだ(作成は清朝時代)。故宮博物院の翡翠白菜の並びに展示され、小腹の空いた人を次々と誘惑する。
オブジェに使用されている石は「カルセドニー (玉髄)」 の仲間である「ジャスパー (碧玉)」と記されているが、この石は不透明で湾曲の縞がないことから、同族の透明度も湾曲の縞も有する、「アゲート(瑪瑙)」であると推測される。ただし、ジャスパーという用語は、特定の命名がされていないカルセドニー全般に用いることがあるので間違いではない。
カルセドニーは水晶と同じクオーツファミリーの鉱物で、あらゆる地域で採取される最も安価な半貴石だ。
先の蘇軾は東坡肉を「金持ちはこんなもの食おうとしないし、貧乏人は煮ることを解しない・・・自分で満足できれば他人がとやかく言うことはない」と詠った。美味なそれと、本来なら金持ちが見向きもしない石に加工を施し「宝の石」に蘇らせた作者不明の「肉形石」に妙な共通点を感じるのだ。