縁起物と宝石「龍と如意宝珠(血赤珊瑚)」4
天台宗の開祖である最澄は、法華経を教義として「誰でも平等に成仏できる」という考え方を大切にし、仏の教えの根本は一つであるという「法華一乗=全ての仏教は大乗の悟りに至るため」の思想を展開した。法華経の「薬草喩品第五」に三草二木の喩えがある。それは、大小様々な草木(衆生をさす)が生い茂っている森林(世の中)に、雨は平等にあまねく降りそそぐという一乗の教えだ。そして草木はみなそれぞれの大きさ(今世で授かった己の器)にしたがって潤い共存共栄し生長していく。すなわち成仏とは、世の中の真理(自分が存在している境遇)に目覚め、真実を見抜く洞察力を磨き、今世での己の器を理解して最大限にそれを活用し前向きに生きていくための智慧をだすこと。ちなみに大乗とは、多くの者が一緒に目的地に到達する乗り物をさす。また、テーブル上のご馳走を皆んなで頂き喜びをシェアする大欲のことだ。
「提婆達多品(ダイバダッタホン)第十二」にて、女の性は成仏が難しいとされるなか、娑伽羅龍王の第三女龍女がお釈迦さまに如意宝珠を奉納したことにより悟りがひらけ(六道の解脱)ができた。龍神様がもつ如意宝珠には天界(物質世界)において絶対無二の効力がある要素が含まれているのに対し、菩薩界の地蔵菩薩、虚空蔵菩薩、如意輪観音、吉祥天などが手に持つ如意宝珠の意味合いはもっと精神的な要素が大きく、お寺や舎利塔の屋根に宝珠の飾りを取り付けたり、橋の欄干の親柱に「擬宝珠(ぎぼし)」がつけられるのは病を治したり災いを退ける力などになる。
ところで、昇龍は運気上昇、降龍は幸福を届けるという全てのエネルギーの源。陰陽五行(木・火・土・金・水の5元素)説の思想によると、青龍は「木」にあたり東方を守護。仕事運・勝負運を高め、商売繁盛。赤龍は「火」にあたり南方を守護。意欲・勝負運が高まる。金龍は「土」にあたり中央を守護。五穀豊穣の神で金運・財運を高める。白龍は「金」にあたり西方を守護。精神面・物質面から金運・仕事運・結婚運を高める。黒龍は「水」にあたり北方を守護。人間関係を守り健康運を高める。
さて、龍は王朝時代、東アジアにて最高位の象徴王に与えられ、一般的に男性が女性に求愛するとき簪(かんざし)をあげる風習があったが、当時、王后に贈られた宝珠の血色珊瑚(幸福・長寿の意味)をくわえる龍(純金七宝仕上げ)の簪は特別な逸品となる。