Jewelry sommeliere

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NY州立大学FIT卒業。 米国宝石学会鑑定・鑑別有資格(GIA-GG,AJP)。 CMモデル、イベント通訳コンパニオン、イラストレーターなどを経て、両親の仕事を手伝い十数カ国訪問。現在「美時間」代表。今迄培ってきた運命学、自然医学、アロマテラピー、食文化、宝石学などの知識を生かし、健康で楽しく感動的な人生を描くプランナー、キュレーター、エッセイスト、ジュエリーソムリエール(Jewelry sommeliere)

2022年2月7日月曜日

週刊NY生活No850 1/22/22' 宝石伝説48 山梨と宝石「歌舞伎の演目『仮手本忠臣蔵』」とジュエリー」21


山梨と宝石「歌舞伎の演目『仮名手本忠臣蔵』とジュエリー」21


 江戸時代中期1701年元禄14年3月14日、江戸城内松の廊下で、赤穂藩主浅野内匠頭が吉良上野介を刃傷(にんじょう)に及んだことに端を発して、加害者の浅野は即日切腹、お家取り潰しとなった。その結果を不服とする家来の大石内蔵助と四十七浪士は、主君の仇討ちとして元禄15年12月14日、未明に本所・吉良邸へ討ち入りし首級をあげたその後、切腹に至った一連の事件を総称して「赤穂事件」と呼ぶ。主君の遺恨を晴らすべく命をかけた行動は民衆から喝采をもって迎えられたのは、忘れかけていた武士道を体現した一方で、当時の人々が幕府のやり方への理不尽さを日頃から抱いていたのではと思う。

 赤穂浪士の討ち入り後、事件ものを扱った物語がいく度となく人形浄瑠璃、歌舞伎などで作られた。そのなかで白眉となったのが1748年、大阪にて初上演した人形浄瑠璃の演目「仮名手本忠臣蔵」で、(ひら仮名47文字=赤穂四十七士、諸説あるが、武士の手本となる忠臣らと大石内蔵助の「蔵」をかけた。主のために命懸けで仇を討ったヒーローたちへのオマージュも感じる)絶大な人気から歌舞伎にリメイクされた。また史実を扱うことから、幕府のお咎めを避けるためその時代設定は室町時代にし、登場人物の名前もすべて仮名にした。

 さて、全十一段に及ぶなかの重要人物は、高武蔵守師直=吉良上野介に対し、刃傷事件を起こした塩治半官高定=浅野内匠頭と、浪士とともに仇討ちを念入りに計画・実行した大星由良之助=大石内蔵助だ。物語には「南無阿弥陀仏」の来世での幸せを信じるせいか命を尊ばない場面も多く、その背景にはどうにもならない貧困があったのではと思わせる。また、それに巻き込まれて翻弄される人々の、笑い・涙・人情・悲劇が展開する。そんななか、顔世御前(浅野の正室)に仕える腰元だった「おかる」は、のちに夫となる塩治家の家臣である勘平(気の毒にも誤解と勘違いから切腹に追い込まれる)の資金繰りのため自ら遊郭に身を売ってしまうが、恋人のために奔走する行動力をともなった一途さは凛として輝く。それを表現したジュエリーが、歌舞伎俳優 市川九團次プロデュースによる(株)クロスフォーのブランド【花ひらく】シリーズの商品名「矢絣」「恋一途」として蘇った。

2022年2月6日日曜日

週刊NY生活No847 12/18/21'宝石伝説47 山梨と宝石「歌舞伎の演目『義経千本桜』とジュエリー」20

 


山梨と宝石「歌舞伎の演目『義経千本桜』とジュエリー」20



 歌舞伎の演目の一つ『義経千本桜』は、江戸中期1747年11月大阪竹本座で初上演された。源平合戦という史実をもとに、五幕ある場にて主人公が代わりさまざまな人間模様が色濃く繰り広がる。義経が兄源頼朝との争いを好まないことをはじめに登場する者たちの人情深さから、日本人(大和民族)のもつヤップ遺伝子の特色が垣間見られる。さらに、宙吊りなど舞台仕掛けの面白さも楽しめる演目だ。物語は、義経が屋島の源平合戦で大活躍したのにもかかわらず、頼朝の策略で都落ちになリ各地を逃亡する道中、じつは生き延びていた平家武将の(維盛)、知盛、教経らが復讐を誓う展開が中心となる。一方、義経は、京に滞在中に出会った白拍子(男性の服装に刀を身につけ舞いを披露する遊女でもある)の静御前を愛妾にするが落ちゆく旅に連れていかれず、後白河院の御所から戦勝の功として賜った初音の鼓を彼女に与え木に縛りつけ去った後、追手の危機に晒される静を救った家臣の佐藤忠信(その正体は、鼓の皮にされた狐の子供)に「源九郎義経」の名を与え静のお供を命じる。静は恋慕の義経を思い鼓を打ち、それを聴きながら忠信狐は親を乞うなど哀愁を描く。(ちなみに、江戸時代中期の絵師勝川春常の初代坂東三津五郎演じる源九郎狐の浮世絵は、サンディエゴ美術館に所蔵されている)

 この演目の見どころは、「渡海屋・大物浦の段」の平知盛が幽霊姿で義経を襲おうとしたあたり。「すし屋」のいがみの権太は重ねた評判の悪さを撤回するため、維盛を救いたい父の手助けを試みるが裏目にでてしまう末路。桜が満開の吉野の山中で静御前が鼓を打つと、忠信狐が現れる場面。ついに登場する本物の忠信が、義経より哀れみで初音の鼓をもらい受け喜ぶ忠信狐から通力をうけ、義経を狙った猛将の教経を追い詰めるところなど。

 ところで、義経と京都の吉野山で別れて京へ向かう途中、頼朝の追手に捕まり鎌倉へ送られた静御前といえば、義経のみならず鎌倉中の人々を魅了した華麗な舞の名手といわれ、鶴岡八幡宮で舞を披露したことは有名だ(頼朝に白拍子として踊ることを命じられるが、義経を慕う歌を唄い、頼朝を激怒させたという)その華やかに舞っている姿をジュエリーの中で最大限に表現したのが、歌舞伎俳優 市川九團次プロデュースによる(株)クロスフォーのブランド[花ひらく]シリーズの商品名「涙桜」「桜の舞」だ。


週刊NY生活No843 11/20/21'宝石伝説46山梨と宝石「歌舞伎の演目『助六由縁江戸桜』とジュエリー」19


 山梨と宝石「歌舞伎の演目『助六由縁江戸桜』とジュエリー」19

 

 馴じみの稲荷寿司と巻き寿司の詰め合わせが「助六寿司」といわれたのは江戸時代からでその由来は、今でも大人気である歌舞伎十八番の演目「助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)」の主人公「助六」。諸説あるが、いなりの油揚げの「揚」と巻物の「巻」で恋人の「揚巻」を表した江戸っ子の洒落だ。あらすじの舞台は江戸の歓楽街、吉原中之町の三浦屋の界隈。曽我五郎時致が、源氏の宝刀「友切丸」を探しだすため花川戸の助六という侠客に扮装して、侍に片っ端から喧嘩をふっかけては刀を抜かせる。助六の恋人は、吉原にある最高級の三浦屋(遊郭)でトップの花魁の揚巻、一方で彼女に熱を上げ相手にされずとも夜ごと吉原に通いつめる白髪・白ひげの権力者の意休(平家の平内左衛門で、奇しくも友切丸を盗んだ張本人)の3人を中心に話は展開していく。助六は江戸一番の粋でいなせで喧嘩も強い色男で、吉原一の花魁を恋人に持ち、権力者をやっつけるという江戸っ子が憧れるヒーローであった。

 さて、三浦屋で松の位の太夫でもある揚巻は、吉原の張りと意気地を見せる女形最高峰の役柄として知られ、痛快な啖呵で嫌な客をやり込める気風の良さに美貌と気品と知性をあわせ持つ歌舞伎を代表するトップクラスの傾城。揚巻の出端である花魁道中では、傘持ちや妹分の新造、見習い身分の禿(かむろ)を従えて花道から堂々と登場する。三枚歯の高さ六寸(約18cm)重さ3キロの高下駄をはいて披露する独特の外八文字(そとはちもんじ)の歩き方は、少し酒酔いが残っている設定で、七三で立ち止まり「袖の梅」という酔い覚めの薬を一服飲む。そのいで立ちはこのうえなく絢爛豪華で、背中には正月飾りを意識した伊勢海老がくっついているのだから驚きだ。その後の出も、五節句にちなんだデザインになっている。さらに頭には18本のかんざし・櫛が飾られる。それらの総重量は20キロ以上にも及ぶといわれ、美麗だけではなく精神力・忍耐・体力面も兼ねそなえた揚巻は、歌舞伎を語るのに欠かせない5人の女性のなかでも一際輝きを放つ。それを表現したジュエリーが株式会社クロスフォーと歌舞伎俳優・市川九團次氏のプロデュースによる【花ひらく】シリーズ、商品名「花魁道中」「江戸桜」だ。まるで花魁道中の揚巻のように、その大胆なデザインの中心で揺れるダイヤモンドは胸元で閃光を放つ。

週刊NY生活No839 10/16/21'宝石伝説45 山梨と宝石「歌舞伎の演目『桜姫東文章』とジュエリー」18

 
山梨と宝石「歌舞伎の演目『桜姫東文章』とジュエリー」18

 

 日本の歴史でもある歌舞伎の公演は通常、昼・夜の二部制で、上演時間が4~5時間ほどと長いため、時間の余裕のある年代の客層がおのずと多くなる。一幕だけ短時間見るることのできる廉価な幕見席を利用する手段もあるが、近年の歌舞伎に関する調査によると観たことがある人は全体の約2割で、そのなかで1、2回程の人が過半数を占める。その消極的な理由の最大なものは観に行くキッカケがないことだ。また演目のあらすじがわからなく面白くないことが挙げられる。

 さて、そのキッカケ作りになりそうなのが、サンリ王の会社クロスフォーと歌舞伎役者の九團次氏のプロデュースにより誕生したジュエリーブランド【リゾネイト】で、「伝統と革新」をコンセプトに、第一弾として歌舞伎を語る上の立役者である5人の女性をイメージして制作された【花ひらく】シリーズだ。最初に登場した歌舞伎の創始者でもある出雲阿国に次ぐジュエリーのモデルとして登場するのが『桜姫東文章』のヒロインである桜姫。4世鶴屋南北による『東海道四谷怪談』に並ぶ歌舞伎の人気演目で、南北ならではの退廃的な美があふれる傑作だと知られている。

そのあらすじを要約すると、桜姫、権助、清玄を中心に話は展開していく。桜姫は高貴な身でありながら、お家転覆を謀られ父親、兄弟まで殺されたうえ子どもまではらませた悪の魅力を放つ権助に惚れ自ら遊女に身を落とすはめになる。一方、清玄は昔、惚れ込んだ美しい稚児の白菊丸と心中を測ったが自分だけ死にきれずやがて高層となり、その17年後、生まれつき左の手が開かずにいた桜姫にであい念仏を唱えたところ、掌が開いて中から香箱の蓋(昔心中を図ったときに白菊丸が「清玄」と記したもの)が現れたことで、桜姫が白菊丸の生まれ変わりだと確信して因果の糸に執着するように一方的に桜姫を追いかけ、身を滅ぼしてもなお亡霊として現れる。桜姫は極悪の権助一筋だが、その権助は己の出世のみを考えている。彼女はかなり破天荒な運命に翻弄されながら流転の人生を歩むが最後には信念を貫き実家の再興を果たす。男女の性、輪廻転生、人間の持つ欲望と混沌とした世界が華やかな舞台で繰り広がる。

 来春この演目はシネマ歌舞伎最新作として公開が決定しているが、桜姫の信念をモチーフにした桜吹雪が舞うようなデザインのジュエリーを身に付けて実際の舞台も観たいものだ。