「バローダの月」上
「バローダの月を身にまとった者は世界に名高い人物になる」という伝説がある。それは、その輝きがまるで月の光のようで、Moon of Baroda(バローダの月)と呼ばれた世界的に有名なファンシーイエローダイヤモンドのことである。
一般にダイヤモンドの色は無色から淡黄色であり、業界で使用されるDからZのカラーグレーディング スケールにより表示される。 一方でファンシーカラーダイヤモンドは、フェースアップでZの範囲を超える色を呈するイエロー及びブラウンのダイヤモンドが多く、その他あらゆる色があるが、その色合いによって希少性は高まる。通常ダイヤモンドは着色が見えるほど価値が下がるが、 ファンシーカラーダイヤモンドではこれと正反対になる。その価値は一般的に色の濃さと純度に応じて高くなり、 大きくて鮮やかなファンシーカラーダイヤモンドは極めてまれであり、殆どは純度も濃さも低いものが大半だ。
インド北西部のバローダで産出された、24.043カラットのペアーシェイプ(洋梨型)にカットされたバローダの月は、その当時この地を治めていたマハラジャのガエクワド家が長い間秘蔵していた。18世紀に入り、このダイヤの新たな所有者になったのは、ハプスブルク=ロートリンゲン朝の同皇帝フランツ1世シュテファンの皇后にして共同統治者、オーストリア大公、ハンガリー女王、ボヘミア女王で、ハプスブルク帝国の領袖であり、神聖ローマ帝国の女帝マリア・テレジアであった。彼女の手に渡った経緯は定かではないが、一説によると、父のカール6世の時代からガエクワド家と交易があった関係で譲渡されたという。彼女は宝石をこよなく愛したことで知られ、数多くの肖像画にも描かれている。なかでもバローダの月は特別で、ハプスブルク家の家宝として受け継がれた。しかし1860年にこのダイヤは再びインドに舞い戻る。熱烈な宝石収集家だったマハラジャのムルハルラオ・ガエクワドが、莫大な財力に物をいわせかつての家宝を買い戻したからである。
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