「ドレスデン・グリーン(下)」
七年戦争終戦後、グリーン・ダイヤモンドは勲章「ゴールデン・フリース」から外され、帽子用ブローチに作り変えられた。1741年から約200年もの間ドレスデンに留まっていたこの宝石は、第二次世界対戦開始前までは一般公開されていたという。終戦後ソビエト連邦の戦利品としてモスクワに運ばれ、その13年後ドレスデンに返還されて以降、アルベルティーニム美術館に落ち着いた。この200年もの間ドレスデンの地で人びとを魅了してきたことから、一般に「ドレスデン・グリーン・ダイヤモンド」と呼ばれるようになった。
2000年にこの宝石はアメリカにわたり、ニューヨークのハリー・ウインストンサロンで展示された後、その年の10月から約1年間、ワシントンD.C.のスミソニアン博物館にあるハリー・ウインストン・ギャラリー内の「ホープ・ダイヤモンド」(45.72ct のグレーかかった濃青色)の隣に展示された。ヨーロッパの王室に所有され、数世紀に渡り人々を翻弄しながら大陸を横断してきたという共通点を持つ「ホープ」と「ドレスデン」は「姉妹」のような存在といわれダイヤモンド史上、最も希少性の高い重要な位置ずけに値する至宝である。両者を並べて展示するウインストン氏の長年の夢が叶ったというわけだ。
世界で発掘されるダイヤモンドの多くは窒素を含有するタイプ I 型(a.b)で、その量にもよるが、多少なり黄色味を帯びる。このグリーンダイヤモンドはそれを殆ど含まないタイプ II型。その色因は結晶構造内で、放射線が炭素原子を通常の位置から転換することにより生じる。市場には人工的に緑色を入れられたダイヤが出回っているが、41ctもある「ドレスデン・グリーン」は自然発生による天然の緑色を有し、クラリティーも申し分なく唯一無二のダイヤモンドだ。
このお宝に無色のダイヤモンドが散りばめられた絢爛豪華な帽子のクラスプは現在、ドレスデン宮殿にあるザクセン王家宝物館の「緑の円天井(グリーンヴォールト)」の部屋に鎮座している。
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