「ファベルジェのイースターエッグ」(上)
昨年、デイズニー映画『くるみ割り人形と秘密の王国(The Nutcracker and the Four Realms)』が公開された。時代はヴィクトリア朝のロンドン。物語のキーとなるのが、主人公クララに亡き母が残した金色の卵型の飾り物。「この中には貴方が必要とするものすべてが入っています」と手紙が添えられていたが、鍵が見当たらず、それを探すためにミステリアスな4つの王国からなるパラレルワールドへ旅たつ。ようやく鍵を見つけて戻り、開くとオルゴール付きの鏡になっていて中は空っぽ。鏡には母が居なくなってから心を閉ざしたままの自分が写っていた。そしてハッと家族の大切さに気づく。母はそんなクララの心の鍵を開けてくれたのだ。
映画に出てくる卵型の飾り物とは、インペリアル・イースターエッグをモデルにしたと思われる。それは1885年から1916年の間にロシアの金細工師ファベルジェが製作した大半がロマノフ朝ロシア皇帝アレクサンドル3世と息子のニコライ2世に納められたもので、宝石で装飾された金製のイースターエッグ約55個を指す。希少性が高く現在1個あたりの価格は推定3億5千万~20億円といわれる。最大の特徴は、装飾の美しさだけではなく精巧な仕掛け(サプライズ)にある。
1885年、皇帝は結婚20周年の記念に、皇后マリアの出身であるデンマーク王家の所有する18世紀初頭のフランスのイースターエッグを参考にファベルジェに製作させた。これは金の素地に白いエナメルを厚塗りした簡素なヘン・エッグ(雌鶏の卵)で、中に金の黄身を仕立て、またその中に色味の異なる金を使った雌鶏が現れる。さらに小さなダイアモンドの王冠とルビーのペンダントが入っていたという。その後、次第に豪華な飾りと複雑な仕掛けが施されていく。なお、ニコライ2世の戴冠に際して作られたエッグは、1897年のイースターの時に皇后アレクサンドラに贈られた。表面はエナメルが散りばめられたプラチナで、ダイアモンドとルビーが装飾されている。その中にすべての可動部分を再現したエカテリーナ大帝の馬車の精密なミニチュアが仕込まれている。
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