山梨と宝石「歌舞伎の演目『助六由縁江戸桜』とジュエリー」19
馴じみの稲荷寿司と巻き寿司の詰め合わせが「助六寿司」といわれたのは江戸時代からでその由来は、今でも大人気である歌舞伎十八番の演目「助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)」の主人公「助六」。諸説あるが、いなりの油揚げの「揚」と巻物の「巻」で恋人の「揚巻」を表した江戸っ子の洒落だ。あらすじの舞台は江戸の歓楽街、吉原中之町の三浦屋の界隈。曽我五郎時致が、源氏の宝刀「友切丸」を探しだすため花川戸の助六という侠客に扮装して、侍に片っ端から喧嘩をふっかけては刀を抜かせる。助六の恋人は、吉原にある最高級の三浦屋(遊郭)でトップの花魁の揚巻、一方で彼女に熱を上げ相手にされずとも夜ごと吉原に通いつめる白髪・白ひげの権力者の意休(平家の平内左衛門で、奇しくも友切丸を盗んだ張本人)の3人を中心に話は展開していく。助六は江戸一番の粋でいなせで喧嘩も強い色男で、吉原一の花魁を恋人に持ち、権力者をやっつけるという江戸っ子が憧れるヒーローであった。
さて、三浦屋で松の位の太夫でもある揚巻は、吉原の張りと意気地を見せる女形最高峰の役柄として知られ、痛快な啖呵で嫌な客をやり込める気風の良さに美貌と気品と知性をあわせ持つ歌舞伎を代表するトップクラスの傾城。揚巻の出端である花魁道中では、傘持ちや妹分の新造、見習い身分の禿(かむろ)を従えて花道から堂々と登場する。三枚歯の高さ六寸(約18cm)重さ3キロの高下駄をはいて披露する独特の外八文字(そとはちもんじ)の歩き方は、少し酒酔いが残っている設定で、七三で立ち止まり「袖の梅」という酔い覚めの薬を一服飲む。そのいで立ちはこのうえなく絢爛豪華で、背中には正月飾りを意識した伊勢海老がくっついているのだから驚きだ。その後の出も、五節句にちなんだデザインになっている。さらに頭には18本のかんざし・櫛が飾られる。それらの総重量は20キロ以上にも及ぶといわれ、美麗だけではなく精神力・忍耐・体力面も兼ねそなえた揚巻は、歌舞伎を語るのに欠かせない5人の女性のなかでも一際輝きを放つ。それを表現したジュエリーが株式会社クロスフォーと歌舞伎俳優・市川九團次氏のプロデュースによる【花ひらく】シリーズ、商品名「花魁道中」「江戸桜」だ。まるで花魁道中の揚巻のように、その大胆なデザインの中心で揺れるダイヤモンドは胸元で閃光を放つ。
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