「インドから帰国したばかりのマーカス・モーゼス氏は、緑色の大きなダイヤモンドを抱えて、時のイギリス国王ジョージ1世に謁見した。そのダイヤモンドを見るなり、国王と妃殿下はたいそう驚いたが、購入するまでには至らなかった。ちなみにその価格は1万ポンドだと言われている」と書かれたこの記事は1722年10月、ロンドン市内で配布された地元新聞紙「The Post Boy」の紙面で、のちに「ドレスデン・グリーン」と呼ばれるようになるグリーン・ダイヤモンドが取り上げられた、現存する最も古い歴史的資料である。
18世紀に入って発掘されたこの宝石の産地は、ブラジル説もあるが南インドのゴルコンダ鉱山の可能性が高い。そして、ロンドンに住むユダヤ系のダイヤモンド商人として事業を成功させていたローゼスにより買い取られた。数年後、ザクセン選帝侯アウグスト1世(ポーランド国王としてはアウグスト2世で、芸術や建築をこよなく愛し、ドレスデンを中心にバロック建築を取り入れた多くの宮殿を建設)に、この宝石を3万ポンドでオファーを試みたが、売却するには至らなかった。
やがて1741年、モーゼスの手から離れたこの宝石はオランダ商人の手を経て、アウグスト1世の息子であるアウグスト2世(ポーランド国王としては3世)の元に渡った。その金額は、軍事費に匹敵するほどの金額だったと言われる。
息子のアウグスト2世の所有となったグリーン・ダイヤモンドは、父親の1世がドイツのハプスブルク帝国の同盟者の一人として金羊毛騎士団の騎士に叙任された時の勲章(ゴールデン・フリース)に、ウイーンの金細工師によりセッティングされより輝きを増した。その後、ヨーロッパで7年戦争(1756-1763年)が勃発し、ドレスデン城のグリーン・ヴォルト・ルームに安置されていた煌びやかな勲章は、王室宝飾コレクションとともに戦火をのがれるため、ケーニッヒスシュタインの要塞に保管されたのである。
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