カルティエ「フラミンゴのブローチ」4
1921年、カルティエは英国のエドワード8世の御用達となる。1934年頃、エドワードが心を寄せていたのは、離婚歴のあるアメリカ社交界の花形ウオリス・シンプソンという女性だった。そのことが、英国王ジョージ5世の崩御(1936年)によって大問題を生じさせる。王位を継承するものは同時に英国国教会(離婚した人間の再婚を認めない)の首長となるのだ。したがって苦渋の決断を迫られたエドワードは彼女を選び英国王位を退き、新国王となった弟ジョージ6世から「ウインザー公爵」の称号を与えられた。エドワードは彼女に数多くの宝石を贈っている。なかでも有名なジュエリーはフラミンゴのブローチ。彼女は所有していたネックレス1点とブレスレット4点を材料として、パリのカルティエのデザイン責任者だったジャンヌ・トゥーサンに提供した。トゥーサンは共同デザイナーのピーター・ルマルシャンとともに、それらの宝石を使い、1940年にプラチナとイエローゴールドの石座にビーズカットされたダイヤモンドをパヴェ(フランス語の「石畳」意味し、ダイヤモンドを隙間なく敷き詰めた石留め方法)セットし、フラミンゴのきらめく体を生み出した。羽と尾にはステップカットされたルビー、エメラルド、サファイアをあしらい、目にはカボションカット(ファセットをつけない円形に研磨した)のサファイア、くちばしはカボションカットのシトリンとサファイヤで表した。やがて絶妙なバランスを保ちながら一本足で立つフラミンゴのブローチを完成させた。エドワードはウインザー公爵夫人となった妻の誕生日祝いにこのブローチを贈り、同時にこの宝石は彼女にとって豊富に所有するジュエリーのなかでも貴重なものになった。1986年彼女が亡くなった翌年、このブローチはサザビーズのオークションにかけられた。その時のサザビーズの責任者デイビッド・ベネットは「フラミンゴのブローチはすぐさま売り上げの鍵となる宝石になりました」と語っている。2019年10月、東京の新国立美術館で開催された「カルティエ、時の結晶」展にて、このブローチ(大きさは10㎝程度)を鑑賞した。まるで水面に揺れながらその体は眩いかぎりに耀き、鮮やかな赤、青、緑色の躍動感ある羽を広げて凛として佇む、華やで気品が漂うフラミンゴに魅了された。
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