Jewelry sommeliere

自分の写真
津延美衣(つのべみえ)NY州立大学FIT卒業。米国宝石学会鑑定有資格者(GIA-GG,AJP) 運命学・自然医学・アート・アロマテラピー・食文化などの知識を元に感動的な人生を描くプランナー・エッセイスト・キュレーター兼ジュエリーソムリエール(Jewelry sommeliere) 美時間代表。

2018年9月1日土曜日

週刊NY生活No.686 7/21/18' 宝石伝説6黒皇太子のルビー(スピネル)

                      黒皇太子のルビー(スピネル尖晶石’)

  19世紀までルビーだと思われていた巨大な赤い宝石がある。それは、大英帝国の王冠の正面下部に嵌め込まれたアフリカのレッサースターと呼ばれる、有名なダイヤモンドカリナンII‘ (317.4ct)の直ぐ上にセットされた、最上部に小さな天然ルビーをあしらったレッドスピネル(170ct)だ。
  14世紀、全身に黒い甲冑を身にまとい、フランス軍からノワール()の騎士と恐れられたイングランド(イギリス)の黒皇太子(Edward, the Black Prince 1330~1376)は、英仏の間で勃発した百年戦争前期に活躍して数多くの勝利をもたらした伝説をもつ。彼は戦闘のさなかスペインのカスティーリャ王ペドロ1世を支援し、そのお礼にこの宝石(ペドロ1世が、グラナダ王国のムハンマド太子から戦利品として略奪した)を譲り受けた。皇太子の死後、この宝石は後に続く騎士の肌身や兜に付けられ、度重なる戦禍をくぐり抜けて19世紀に大英帝国の第一王冠にセットされ、現在もイギリス王室の守護石となっている。
  古代、並外れた大きさのスピネルの結晶は中央・東南アジアの鉱山で産出され、 “Balas rubies(バラスルビー)”として知られていた。 ICA(国際色石協会)の報告によると、16世紀初頭すでにルビーとスピネルは異なった鉱物であると認識されていたが、一見して鮮明な赤色である双方の宝石は、数百年のあいだ区別されないまま時を経過した。

  スピネルは、ダイヤモンドと同じ八面体の結晶として産出されることがあり、これが小さなトゲを思わせることからラテン語でトゲを意味するスピナ(spina)が転じてスピネルと呼ばれるようになった。ルビーとの明白な違いは、光がルビーに入ると光線が分割し(複屈折性)、オレンジや紫がかった赤色の多色性になるが、それに対してスピネルはすべての方向から見ても同じ色のまま(単屈折性)であることだ。

0 件のコメント:

コメントを投稿