ナポレオンのダイヤモンドネックレス
フランス革命期に天才的な戦略と戦術によりヨーロッパ大陸の大半を支配下に治めた軍人・政治家のナポレオン・ボナパルトは、宝石を愛して数多く所有し自らも身につけた。なかでも地球上で最も硬い物質「征服されざる」という意味を持つギリシャ語アダマス(Adamas)から変化した呼び名のダイヤモンドは、自分自身を象徴する宝石と考えたのか特別な思いを抱いていた。 ナポレオンは後継者を産めなかったジョセフィーヌ皇后と離婚し、オーストリア皇女マリー=ルイーズと再婚後、1年を待たずして息子のナポレオン・フランソワ=ジョセフ・シャルルを授る。すると即座に彼はパリの宝石商ニト・エ・フィスに、皇后が1年間に使える皇室の予算に匹敵する高価なダイヤモンドのネックレス(37万6274フラン)を彼女のために特注した。
このネックレスは、234個すべてがダイヤモンド(総重量263ct)による。その大きな石47個は、一連の鎖に28個のマインカット(ブリリアントカットの初期スタイル)によりセットされ、9個のペアシェイプ(その内4個に23個の小さな石をあしらった)と10個のブリオレットカット(滴形のカット)の石が、そこから吊り下げられたとてもゴージャスなネックレスだ。
ダイヤモンドは炭素原子の結晶で、全体の98%は窒素(黄色みを帯びる色因)など炭素以外の不純物を含む ‘タイプI’ と、窒素をまったく含まない ‘タイプII’ に分かれる。なかでも‘タイプIIa型’は、不純物を一切含まない純粋な無色になり、全体の2%にも満たず希少性が極めて高い。ちなみに、このネックレスのうち13個の石は ‘タイプII a型’ だ。
マリー=ルイーズはこのネックレスがとても気に入り、身につけている様子が何点もの肖像画に見られる。後に失脚したナポレオンを見捨てる(再婚を繰り返す)一方、自身が亡くなるまで手放さなかったというこのネックレスは、現在アメリカ・ワシントンDCのスミソニアン博物館で輝きを放っている。
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