ホープ・ダイヤモンド
数年前、世界最大で名高いブルー(ホープ)・ダイヤモンド(1958年NYの宝石商のハリー・ウインストンが寄贈)を目指してアメリカ ワシントンD.C.にあるスミソニアン国立自然史博物館を訪れた。見事なカットが施されたダイヤが連なるネックレスに、同カットのダイヤで囲まれたペンダントヘッドが、四角いガラスのケースに鎮座して数秒ごとに東西南北を移動する。そのたびに放たれる目の眩むような脇石(ダイヤ)の煌めきと、主役のブルー・ダイヤモンド(無傷)の見事な大きさ(45.52ct)には圧倒されたが、残念ながら色合いはグレイがかった暗いブルーで、期待していた鮮明な濃いブルーではなかった。
諸説あるが、この宝石(約112.50ct)は、9世紀頃インド南部で農夫により発見されたその時から所有者の血を流してきた。17世紀に入り、ヒンドゥー教寺院に祀られた神像の眼に嵌められたこの宝石が盗まれ、僧侶は所有者に呪いをかけたという。フランス人タベルニエが国に持ち帰り、その後リカットされて(67.12ct)ベルサイユ宮殿の王家の人々を虜にした。その1人、王妃マリー・アントワネットが断頭台の露へと消えたことは有名だ。宝石はヨーロッパを駆け巡り、ホープ・ダイヤモンドの名前の由来になったイギリスの実業家ホープが所有したものの、相次ぐ災難に見舞われた。その後、アメリカに辿り着いた宝石ホープ=『呪いの宝石』の現在進行形に終止符を打ったのがウィンストンだ。
本来、美しい青色で妖艶な輝きを放つ大きな宝石は、所有する者を翻弄して剥き出しになったその強欲の汚れた魂を吸収する毎に明彩度が落ちていったのではないかと思われる。
通常ダイヤモンドの約3分の1は紫外線を当てると様々な蛍光色が現れる。その光源を断っても残存するのが燐光(赤か青)で、この宝石のように1分以上に亘って発するのは珍しく、現在に至ってもその原理は解明されていないという。実際にその写真を見たが、まさに血の赤色だった。
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